映画「PLAN 75」を観てきたよ

久々に映画観た

この映画のことを最初どこで知ったのかすっかり忘れてしまったのですが、もともと安楽死制度を日本に導入することについての議論に興味があったので、観てきました。
普段基本的にアニメ映画しか観に行かないので、久々に普通の(?)映画を観に行きました。
恋愛/アクション/ホラーらへんにあまり興味がないので、実写映画で観たい!と思えるものがあると嬉しいです。
直近で観たアニメ以外の映画ってT-34 レジェンドオブウォーかも・・普通ではない気がする・・。

以下ネタバレありで感想を書きます。
いうて内容的にネタバレとは……?って感じではありますが。

みんな普通の人

PLAN 75オフィシャルサイトのSTORYには、以下のように書いてあります。

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。
果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。


正直、これが映画のすべてです。
ここに書いてある以上のことは起こらないし、「最後に見出した答え」も別に教えてはくれないです。
全体的にあなたならどう考えますかというメッセージを感じ取りました。
(ちなみに表題にもなっているプラン75ってのは >満75歳から生死の選択権を与える制度 のことです。)

映画全体を通して思ったのが、攻撃的な人…嫌な人ってのが登場しないんですよね(最序盤以外)。
世界観としては、若者が高齢者を目の上のたんこぶと思うがゆえに殺害する事件が起きて、高齢者はお荷物だという考えが世論のメインになり、ついには国家単位で高齢者は死を選択できる(声を大にしては言わないけど、そうすべきである)という状態になった日本なんですよね。
だから序盤では、結構高齢者がいじめられてるような世界なのかなーと想像していたのですが、そういう描写は全然なかったです。
まあ、国がプラン75という制度として高齢者を排除することを正当化しているわけなので、わざわざ民間人がいじめる必要がないのかもしれませんね。
(てか最初に出てくる若者ダブルバレルのライフルかショットガンみたいなの持ってなかったですか?? そんなん普通に持ってるって自作の銃どころじゃないっすよここは世紀末か??)

ただ、プラン75を実施する役所側が嫌がらせを受けるシーンはあったのですが、そんなもんじゃ済まないだろうって感じでした。
まあ制度そのものを考える映画ではないと思うので別に文句はないのですが、炊き出しの場でプラン75申込み窓口があるのがエグすぎて笑っちゃいました。
さすがに今の価値観でやったら人殺しーって速攻襲撃されるだろうと思うのですが、公的な自死が一般的と捉えられている世界観なんだなというのがそこでよく伝わってきました。

プラン75の制度については日本で実際にありそうだなーというのが正直な印象でした。プラン75という名称も非常にありそうすぎる。
作中に出てくるCMもやたらリアルで、「人っていうのは生まれてくることは選べないけどね、死ぬときくらいは選べたっていいんじゃないかなって思って~」みたいなことをばあちゃんが言ってて、めっちゃありそう~。ユーザーの声ってことになると、もうそのばあちゃんはこの世にいないんかな?とか思っちゃいました。死後CMに出続けてるってなんか変な感じ。

プラン75は全世代の首を真綿で絞めている

攻撃的な人がいないっていう話繋がりで、映画を観る前は安楽死についての問題として、もうそろそろ死んだら?みたいなことを周りの人に言われて死を選択してしまうっていうのが大きいなって個人的に思っていたんですね。自分で選ぶのではなく周りの人に言われてとなると、それは間接的な殺人だよなと感じるので。
だからそういう出来事がないのが意外だなと思ったのと同時に、そういったドラマチックでショッキングな出来事がなくても淡々と日常の中で死を選ぶ(もしくは選ばされる)人がたくさんいるというのが不気味さや気持ち悪さを感じましたし、そっちの方が断然悪質な世界だなと思いました。

誰かに死ね!ってされて、つらい!!死にたくないよ!!なんていう直接的で分かりやすい展開は日常にはなくて、主人公のミチさんの身に起きる、誰しもの日常に有り得るような出来事から、私って死んだほうがいいのかしらという思いにじわじわ傾いて行くという展開が、より物悲しさを強くしていました。

ミチさんがほんといい人なのがつらい。やってた仕事をクビになったのもミチさんのせいじゃないんですけど、生活保護を受けるんじゃなくてまだ働いていきたいって意思があって、上品でコミュニケーションもしっかりしてる方。こういう責任感が強い方こそが自分って死んだほうがいいのかしらって思うのよね~~リアルすぎてさ~~。
いい人を描くことで、この制度を作ったってことはこういう人を殺すっていう選択をしたってことやぞと罪の意識を感じさせてきます。

そして最もプラン75の問題点と感じたのは、この制度に関わる若者たちの心がぶっ壊れていくという点。
こりゃ本末転倒では?と思ってしまいました。
とくに罪を犯した訳でもないただの人を殺し続けるというのは、マトモな精神の持ち主には無理なのではなかろうかと。まあ長生きしていることこそが罪だという世界なのかもしれませんが。
正直、相手を人間と思わず、機械的に処理するならまだイケるかもしれませんが、対話してしまったらもうそんなん無理ですよね。

プラン75の利用者向けコールセンターで働いている若い女性の描写がありましたが、あんなん新手の拷問ですよ。精神がぶっ壊れます。
利用者が安心して死ねるように(?)ということで、身の上話とかを聞いてましたけど、それでハイじゃあ明日あなた死にますのでお疲れ様でしたとは言えないでしょうと。
年齢は関係ないかもですが、それでも20代であれやったらマジでダメだと思いました。

それに、直前でもやっぱり止めたいとなったらいつでも止められる制度はさすがにあって安心したのですが、役所としてはなるべく心変わりさせず死んでもらおうという姿勢なのが描かれており、なんとまあ悪辣な…ともはや笑けてしまう状態でした。
結局そのコールセンターの女性がどうなったのかは描かれませんでしたが、純粋に心配です。

もうひとりの主役的ポジションの若い男性は、最終的に自分の答えが出たのかな?とは思いましたが、どう考えても鬱になると思います。
つまり、国家の運営が立ち行かないからという理由で高齢者に死んでもらうとなったけど、結果若者の心も殺しているという悲惨さがあるなと。
ただ作中で国としてはすごいいい感じ~もっとプラン75推し進めてこ~なノリが描かれていたので、あの仕事に関わったとて痛くも痒くもない人が大多数なのかもしれないです。

あくまで登場した若者たちが、私達のこの世界と近い価値観の人たちだったというだけなのかもしれません。
ネット上やその場の勢いで死んでくれ的なことを平気で言える人は大勢いると思いますが、実際に人を死なせる仕事をずっと続けていてマトモでいられるとはさすがに思えないですけどもね。
だから、もしそういう仕事が一般的になったら今まではなかった心の病が生まれるんでしょうね。戦争で兵士が受けるトラウマとはまったくプロセスが異なりそうです。

自分で死を選ぶ制度は日本に向いてない

私はこの映画を観終わったとき最初に、日本に健康な人の安楽死制度は合わねえわ!と思いました。
私が安楽死制度でいいなと思う点は、死を選びたい人が死を選択できるという点なのですが(あたりまえすぎる?)、日本人の国民性から見てそれは無理なのではないかと。

自分の死を自分で選択するというのは、自らに対する選択の中で最高レベルのものだと思うので、そもそも自分のことを自分で決められない人々に与えて良い権利ではないのかもしれないと思いました。
決められないこと自体を否定したいわけではなく、相性が悪いという話です。
非常にリアルだと感じたこのプラン75の多くは、自死ではなく殺人なのだろうと思いました。

私にとって、自分で死を選ぶことは非常に高度な人間性の現れ……うまく表現できないのですが……高い知性があるがゆえに到達する場所だと思っているので、それを殺人の道具にすることや他人に決められることであってはならぬという強い思いがあります。

完全に理想論にはなってしまいますが、私にとって理想のプラン75があるとすれば、年齢関係なくああもう人生やりきったわと。座して死を待つより自分の選択として終わらせることで自分にとっての最高の人生が完成するというイメージで、この選択に年齢は関係ないと思います。

もしくは、一般的な安楽死のイメージ通り、もう治る希望のない病や終わりのない苦痛に苛まれ、もう生きていたくはないと選択する場合。まあ病気に限らず、生きていたくないという強い確信がある場合などに利用できたら良いなと思うのですが、とにかく自分が選択したいかどうかしかそこにはなく、他人がどう思うかは一切関係ないものであったら良い…というかそうでなくてはならないだろうと。

だから、公的に実施するのは無理なのだろうなと思いました。国でも他人でも、自分が死ぬことでなにかのメリットがあるから制度として成立するとなると、どうしたって他人のために死ぬのだとなってしまうので、自分の理想とする安楽死制度とはかけ離れているなと思いました。

ちなみに作中では、日本人は国家のために死ねるからこの制度が受け入れられたという流れだったので、あの世界では他人のために…と思って死ぬことが正しいです。むしろ自分が死にたいから死ぬというのは違うのかもしれないです。まあ国としては死んでくれれば何でもいいのかもしれませんが。
そう思うと、一族のために敗北の責任を取って切腹する武士、とかがイメージ的に近いのかもしれませんね。そういう美化の仕方で売っているのかもしれません。
ミチがプラン75実施前に、部屋をキレイに片しているサマはまさに切腹前の武士のようだと感じました。

最後の方観ててすごい思ったのが、この日死ぬって分かってて暮らすのめっちゃ嫌~!!
明日死ぬんかあ・・って思って淡々と暮らすの無理~!!
そうは言っても普通に過ごす人が多数派だとは思うんですけど、なんかやらかす人とか居ないんですかね??
75歳以上だとは言っても事を起こそうと思えばいくらでもやれると思うのですが・・。

これは絶対にアホな話なんですけど、自分がこの制度利用するならコロシアムとかに出たい。
死ぬかもしれないし死なないかもしれない、もう死ぬと分かっているからこそできるデスゲームがやりたい・・。エンタメの中で死にたい・・。
自分の足で病院的なところまで行って、殺風景なベッドが並んでるところでガス吸って死ぬってイヤっすね普通に。
あ~あ って気持ちですわ。

だらしねぇ刹那主義

結局なんでプラン75が始まったかっていうと、高齢者は今役に立っていないしこれから先も役に立つことはないだろう=排除して良いという考え方なのかなと思うのですが、こういうところがリアルでかつ監督さんが警鐘を鳴らしたいと考えていることなのだろうなと思いました。
監督さんは障害者施設殺傷事件からも着想を得たと書いてありましたが、それも同じですね。

私自身は非常に心配性で、自分の将来で不安に思うことをいかに潰していくかということを小さいときから考えているタイプだったので、周りの人意外と今この時のことしか考えてねえな?!と思うことがよくありました。自分の人生でなにを重視するかはその人の選択次第だと思うのですが、社会全体が目先のことしか見えなくなるのはヤベーじゃんと思います。

会社でも国でも家計でも、長期的な視点で運営する必要があると思っているのですが、高齢者が多い!→減らそう!という短絡的な選択をする未来が実際にあるのかどうか?と問われると、微妙です。日本の人口分布が逆三角形なのが、ほっそい長方形になったら解決なのかい?若い世代には同胞殺しの罪を被せて生きてってもらうのかい?と一瞬考えただけでも浮かぶ問題を知らねっとして、実施する可能性が未来にあるのか?と考えた結論が微妙・・となる状態なのが、今の状況なのだなと。

ただちゃんと未来を考えようだの相手を思いやろうだの言われたところで、人間そうはならないところが難しい。
自分がされてやなことをするなっていうのは、想像力がたいへん欠けている人にはいいかもですけど果たして本当にそれは正しいだろうか?となりますし
個人的には同族を攻撃することに喜びを感じる個体は生物として間違っていると思うのですがこんなイカれ論言ってる人いるのか知らないですし
なんかもっと良い言い方ないのかな~って悩みます。

観て良かった

映画自体はとても楽しかったです。考えさせられるとか悲しいとかもあるのですが、良いばあちゃんがたくさん観られたのがとくに楽しかったです。ばあちゃんたちの戯れなかなか観る機会がないですからね。

あとほんとに思ったのが、パソコンとかスマホ分からんかったら私に聞いてほしいですね。私に!聞いて!!
別にあるあるだとは思うんですけど、じいちゃんばあちゃんが機械わからなくて若者に冷たくあしらわれてるやつ、切ねえ!!見たくない!!私に聞いて!!!!
自分も母さんがスマホ分からんてとき実家帰ったりします。が、母さん一応パソコンできるし我が家のばあちゃんはiPad使いこなしてたり、あんまり本気で困ってる人目の当たりにしたことないかもだけど……。こちらにとっては簡単なことで困っている方がいたら力になりたいですね。

あとすげえどうでもいいんですけど、自分はこの映画に出てくる若者世代の方々と同い年くらいで、映画館で隣りに座ったおじいちゃんが高齢者世代だったので、なんか気まずかったです。

もう近所では既に1日1回しか上映していなかったですが、もしチャンスがある方は観に行ってみてください~。
ではまた👋

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